大阪地方裁判所 平成8年(行ウ)4号 判決
原告
甲野太郎(仮名)(X)
右訴訟代理人弁護士
大江洋一
同
西晃
被告
大阪府(Y)
右代表者知事
山田勇
右訴訟代理人弁護士
俵正市
同
苅野年彦
右指定代理人
花谷秀樹
同
和田眞一
同
井上政弘
同
山岡義明
同
今野聡
事実及び理由
第三 争点に対する判断
一 争点1について
1 当事者間に争いのない事実、〔証拠略〕によると、次の事実が認められる。
(一) 本件規則(〔証拠略〕)は、二条で「知事は、府政の振興に顕著な功績のあった個人若しくは団体又は篤行が特にすぐれ、府民の模範となる個人を表彰する。」と定め、同規則を受けて作成された本件実施要領(〔証拠略〕)には、次のように規定されている。
二条(選考基準)
表彰候補者は、次の各号のすべてに該当する者で、知事が適当と認めた者とする。
(1) きわめてすぐれた技能を有し、その技能が府下において第一人者として認められる者
(2) 表彰日現在、優秀な技能をもって、一五年以上の実務経験を有し、かつその職業に従事している満年齢三五歳以上の者
(3) 職業を通じて、後進技能者の指導等、あるいは教育、訓練に携わり、技能者の育成に寄与したこと及び技能に関する工夫、改善等によって生産性の向上に役立ったこと等により、労働者の福祉の増進及び産業の発展に寄与した者
(4) 勤務成績、日常行為等において、他の技能者の模範と認められる者
五条(表彰の推薦手続)
市町村、各種産業団体及び事業所等の代表者は、第二条の規定に該当すると認められる者があるときは、次の書類―(1)表彰推薦書、(2)功績及び経歴調書、(3)推薦理由書、(4)その他参考となるべきもの―を添えて知事あてに推薦するものとする。
八条(被表彰者の決定)
一項 被表彰者は、知事が大阪府優秀技能者表彰審査委員の意見を聞いて決定するものとする。
二項 大阪府優秀技能者表彰審査委員に関し必要な事項は、別に定める。
そして、大阪府優秀技能者表彰審査委員規程(〔証拠略〕)三条には、「委員は、その担当する職務部門にかかる被表彰候補者について、表彰を行うことの適否を審査して、知事に意見を具申する。」と定められている。
(二) 本件表彰に至る経緯は次のとおりであった。
大阪府から職業能力開発協会を通じて被表彰候補者の推薦依頼を受けていたミノルタは、昭和六〇年六月二七日、同協会に対し、Aの表彰推薦書(〔証拠略〕)並びに功績及び経歴調書(〔証拠略〕)等本件実施要領五条所定の各書類を提出し、同年七月五日、右協会は、Aに関する右各書類を大阪府知事宛に提出した(〔証拠略〕)。右経歴調書(〔証拠略〕)には、Aの技能の概要として、「(1)ガラス素材から粗ズリ・仕上ズリ等、(2)五感による研磨状況判定、(3)角物ガラス加工」と、功績の概要として、「(1)ペンタプリズムの水張り研磨法の確立・実用化、(2)非球面仕上研磨技能の確立」と、後進指導育成の概要として、「(1)大阪府職業能力開発協会からの委嘱を受け、大阪府技能検定員として斯界の職業能力開発に貢献している、(2)現場における後進の指導」と、現役性として、「表彰日当日ミノルタ高槻研究所第三部三一研究室に勤務している」と、それぞれ記載され、これらの参考資料として、雑誌掲載記事及び広報資料(〔証拠略〕)、技能・功績の詳細等が添付された。そして、同年八月二九日の大阪府優秀技能者表彰審査委員による部門別審査会、同年九月四日の総合審査会を経て、同委員の意見具申を受けた後、大阪府知事は、Aを被表彰者として決定し、同年一〇月一六日、本件表彰をした。
(三) 原告及びその家族らは、平成六年八月九日、被告の担当職員と面談し、別件控訴審判決を示して本件表彰の取消しを要望したが、同年一一月の再度の交渉の場において、被告の担当職員から、本件表彰は本件実施要領に基づき適正に決定されたものであるから取消しには応じられない旨の文書(〔証拠略〕)を渡された。
2 以上の事実に基づいて判断する。
前記1(一)に示した本件規則及び本件実施要領の定めに照らすと、大阪府知事は、優秀技能者表彰をするに当たっては、被表彰候補者として推薦された者が本件実施要領二条の選考基準を満たしているか否かについて、実質的な審査をすべきであるが、右審査の方法は、原則として、同要領五条所定の各書類に基づきその範囲内で審査すれば足り、特段の事情のない限り、進んで同書類の記載内容の真否あるいは記載外の事実等につき積極的に調査することまでは要しないと解すべきである。
そうすると、前記1(二)で認定したところからすると、本件表彰については、本件実施要領五条所定の各書類が大阪府知事宛に提出され、これらの書類には同要領二条所定(1)ないし(4)の選考基準に該当する記載がなされており、大阪府優秀技能者表彰審査委員による部門別審査会及び総合審査会においてこれらの書類が審査された上で同委員の意見具申があり、これを受けて大阪府知事は、Aを表彰するのを適当と認めて本件表彰を行うことを決定したものと認められるところ、右の当時、提出された関係書類や右審査委員による意見具申の内容に特段の疑問点があったという事情も認められないのであるから、同知事は本件表彰に当たり必要な審査を尽くしているものということができ、したがって、本件表彰に違法な点はないというべきである。
なお、証人甲野花子は、「被告労働部の乙山一郎次長及び大阪府知事は、それぞれ、ミノルタの社長の印鑑をそのまま信用した旨述べた。」との証言をするが、本件表彰の審査方式が前記のとおりのものであると解される以上、右発言をもって、右の判断を左右することはできない。
3 また、原告は、原告が被告に対し別件控訴審判決を示して本件表彰の訂正を申し入れた平成六年八月九日以降、被告には本件表彰の誤りを是正すべき義務があると主張するが、別件控訴審判決(〔証拠略〕)の大要は、「非球面金型の製作については、原告が関与する以前にその試作は完了していたが、昭和五八年五月以降、原告においてその量産のための研磨技術の向上を達成することで、複合型非球面レンズの製品としての生産が可能となったものであり、この意味では原告が本件研磨法を開発したといっても過言ではないが、一方、Aにおいても、昭和五九年一一月以降、本件研磨法に抜本的な変更・改善を加え、さらに作業標準書の作成等を行うことにより、本件研磨法を普遍化・一般化して概ね完成させた結果、非球面金型の永続性ある量産体制の確立をみたものということができ、これをAによる本件研磨法の開発とみることもできないわけではない。」というものであり、すなわち、本件研磨法の開発をAがしたことを否定したものではないから、これによって、被告において、本件表彰を取り消すなどの何らかの措置をとるべき法的義務が発生するとは到底認められないから、被告が原告主張の措置をとらなかったことは、何ら違法ではない。
(裁判長裁判官 鳥越健治 裁判官 戸田彰子 出口尚子)